約15年前、私がJR東日本の東京支社勤務となり、常磐線エリア担当になった時のことです。「仕事で我孫子駅にいったら、コ・ビアンへ行け。」、前任者からの引継ぎメモにこう書かれていました。(引継ぎメモにおすすめの飲食店が書いてあるなんて、今考えるとのんびりした時代ですね。)
コ・ビアン(現在のコ・ビアンⅠ、以降「コ・ビアン」と表記)とは、1969年に我孫子で創業した洋食レストラン。創業50年以上、2003年には道路を挟んで2号店(コ・ビアンⅡ)も誕生するほど地域に愛される人気店で、街が天国しているあの有名番組にも取り上げられています。

私がはじめてコ・ビアンを訪ねたのは2007年頃のことで、当時はチキンカツ定食をはじめ、300円前後で定食が食べることができました。現在でも多くのメニューが500円前後で食べることができ、私が大好きなチキンカツカレーもなんと550円です。
近くに大手カレーチェーン店もあるのですが、お店から出てきたひとたちに「リーズナブルな絶品のチキンカツカレーが近くにありますよ」といつも伝えたい思いにかられます。しかも消費税や最低賃金も上がっていることを考えると、約15年前から実質値上げしていないのと同じではないでしょうか。わたしが我孫子駅勤務なら、きっと週5で通い、「私の血はコ・ビアンのチキンカツカレーでできている」と言っていたと思います。実際、我孫子エリアのJR関係者も利用していて、店内で制服姿のJR社員を目にすることもあります。
前置きが長くなりましたが、15年分の想いを胸に、コ・ビアンへ向かいました。インタビューの対応をしてくれたのは、店長の小熊啓太さん。創業者である小熊覚三郎さんの孫にあたります。

―お店を運営していて、大切にしていることを教えてもらえますか。
「お客さまのために店はある」ということを大切にしています。これはコ・ビアンを創業した祖父の言葉です。今から5年前、それまでは会社員をしていたのですが、私が店を引継ぐことになりました。私が店を引き継いでから、メニューの見直しなども行っていますが、「お客さまのために店はある」という言葉を胸に店を運営しています。大変ですが、年中無休(元日除く)で営業も行っています。しんどい時もありますが、慣れましたね笑
―もともと小さい頃からお店を継ぎたいと考えていたのですか。
将来的には祖父のお店を継ぎたいとは考えていました。父も会社を経営していて、父の会社が山形にある関係で私は山形育ちなのですが、大学に通うため祖父のもとで暮らすことになり、我孫子に引っ越してきました。祖父は実業家であるとともに、さまざま企業の経営指導を行っていました。就職活動を行う際に、料理の勉強をするか、経営の勉強をするか考えましたが、経営者としての祖父の姿に憧れていたのもあり、経営の勉強をするため、セブンイレブンに就職することとしました。
―セブンイレブンで学んだことで、一番店づくりに活かされていることはなんでしょうか。
セブンイレブンでは5年ほど勤め、店舗の経営指導を担当し、多くの店舗をまわりました。そこで学んだことは、店舗づくりにおいて当たり前のことを当たり前に行うということでしょうか。ただし、当たり前といっても突き詰めること、常に徹底することが求められるため、実際働いている社員にとっても厳しい会社だと思いますが笑、非常に多くのことを学ぶことが出来ました。
―仕込みなど、当たり前のことをきちんと続けることが一番大変なのではないでしょうか。
たとえば冷凍食品を使用すれば、もっと楽になるのかもしれません。でも冷凍食品を使用することは誰でも出来ることですよね。「お店はお客さまのためにある」と考えると、お客さまは手作りの料理を求めているし、価格帯についても、コ・ビアンに期待する金額というのがあるので、やっぱりお客さまの期待を裏切ることは出来ません。
―確かにはじめて来店した時は、店舗環境(建物や内外装)に驚きました。
セブンイレブンでは、お客さまへの提供価値を「立地×商品×サービス」という式で考えていましたが、うちでは「味×価格×環境」と置き換えて考えています。ですが、本当はこれだけ天井が高いと空調効率も悪いし、メンテナンスにもお金がかかるんですよね苦笑

―お店として一番思い入れのあるメニューはありますか。
ハンバーグは自信がありますが、手間がかかっているという点では、「牛ほほ肉の赤ワイン煮込み」ですね。ナイフがいらないほど、やわらかく、ぜひ食べていただきたいです。赤ワインに付け混んでいる時間と煮込んでいる時間を合わせると、72時間はかかっています。
手間暇はかけていますが、極力営業時間中に仕込みを行うことで、効率化を図っています。(後日、同僚4人で来店し、全員でほほ肉を食べたのですが、赤ワインの香りも感じられ、肉のうまみがしっかりとする大満足のひと皿。白米が進むこと、請け合いです。)
―「牛ほほ肉の煮込み」は、店によっては2000~3000円するところもありますよね。
本当はもっと高い値段をつけたいです笑 リーズナブルということでいうと、ワインのラインナップも見直しました。低価格でおいしいワインが揃っていますが、うちでなければこの価格では出さないと思います笑 (グラスワイン330円~、ボトル3300円~)。
また、低価格を維持するために、厨房機器にもお金をかけていて、こだわるところ(手作りすべきこところ)と効率化するところ(機械化しても味に影響が少ないところ)を分けて考えています。

―経営効率を上げるという点で、将来的に店舗を増やすというようことはお考えでしょうか。
現時点で店舗を増やすという考えはありません。ただ、現在社員が6名いるので、彼らの待遇をよりよくしたいとは考えています。具体的なアイデアがあるわけではないですが、チャンスがあれば新たなチャレンジしてみたいとは思っています。
―新型コロナウイルスの影響により、飲食店として非常に厳しい環境が続いています。コロナ禍で思うところがあれば、おしえてもらえますか。
昨年、はじめて緊急事態宣言が出た時には、一時休業することとなりました。もちろん不安を感じましたが、一番つらかったことは、「飲食店は悪」という見られ方をしてしまったことでした。ただ状況が少しずつ見えてくる中で、ディナーは以前のようにはいかないですが、ランチにはお客さまも少しずつ戻ってきてくれています。そして、お客さまとやり取りをする中で、お客さまにとっても飲食店は必要で欠かせない存在なんだと、気づかされました。
―最後になりますが、我孫子という地域に対する想いを聞かせてもらってよいでしょうか。
我孫子の良さは、まずは始発電車があり、座れるところです。これは本当によいところです。そして静かで落ち着いていて、自然も豊かなので、穏やかに暮らすことが出来ます。松戸や柏もいいと思いますが、断然我孫子の方がいいですね笑
また、我孫子にコ・ビアンがあり続けるということも、地域貢献というわけではないですが、重要なことだと思っています。コロナ禍で来店出来ないお客さまもいるので、状況が落ち着いてお客さまに戻ってきてもらった際に「お店がよくなっているね」と言ってもらいたいですね。
インタビュー終了後、高校生グループや小さい子を連れたママ友等、様々な年代のお客さまが楽しそうにしている姿を見て、飲食店が、コ・ビアンが提供している価値について、改めて考えさせられるとともに、コ・ビアンがある我孫子をうらやましく思いました。

余談ですが、日中にコ・ビアンに行くのであれば、そのまま散歩することを提案します。徒歩10分ほどで手賀沼公園に到着。水辺を見渡せるベンチに座り、小説でも読めば多幸感につつまれます。(暑い日は、隣接するアビスタ本館内の我孫子市民図書館で涼むのもおすすめです)
DATA
●コ・ビアン
【住所】我孫子市本町2-4-10(コ・ビアンⅠ)、我孫子市本町2-7-27(コ・ビアンⅡ)
【営業時間】11:00~21:00 (料理L.O.・ドリンクL.O. 20:30)
【定休日】無休(元日除く)
【アクセス】JR常磐・成田線「我孫子」駅南口から徒歩2分
【電話番号】0471-82-1002(共通)
※2021年8月時点の情報です。
※新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、営業時間等に変更が生じる場合があります