突然ですが、「好きなスイーツは何か」と聞かれたら、マミーズのアップルパイがまっさきに頭に浮かびます。みなさんにも好きなブランドやお気に入りのお店があると思いますが、多分人生で私が一番食べているスイーツではないでしょうか。(自分調べ・アイスやポテチ除く・トップスのチョコレートケーキと接戦)
マミーズ。正式には「mammies an sourire(マミーズ・アン・スリール)」。sourireはフランス語で笑顔を意味し、「自慢の“お母さんの味”で、ひとりでも多くのお客さまを笑顔にできたら」という想いが込められた1995年創業のアップルパイのお店です。文京区の西片に本店をかまえるマミーズですが、谷中にも店舗があります。谷中店は常磐線日暮里駅から徒歩7分。有名な夕焼けだんだん、谷中銀座通りを抜けた先にあります。

マミーズのアップルパイにはどのようなストーリーがあるのか、マミーズ本社にお邪魔しました。話をしてくれたのは、創業者の次女で専務取締役の小松麻梨子さんです。
―マミーズの歴史をおしえてもらってもよいですか。
母は保険会社に勤務していたのですが趣味としてアップルパイを焼いていました。会社や友人の間で評判になったことから、もっと多くのお方に知ってもらいたいと、移動販売車をするという話になったのですが、家族としては当然反対しました。あくまで趣味としてアップルパイをつくっていて、洋菓子店で働いた経験がある訳でもないですからね。ただ結果的に母親の熱意に押し切られてしまいました笑。
―いまと違って、移動販売は当時まだ少なかったですよね。
そうですね。当時、谷中に住んでいたこともあり、台東区、文京区等を中心にアップルパイの移動販売を行なうこととなりました。最初はなかなか売れなかったのですが、母親は小料理屋で働いていた経験もあるため、日替わり弁当をつくり、そのデザートとしてアップルパイを販売するという形を取りました。付近にお勤めの方を中心に少しずつ売れるようになり、軌道に乗った段階で、1995年に実店舗(現在の本店)を開きました。

―当初から小松さんはお母さまを手伝っていたのですか。
当初、私は別の会社で働いていました。少しずつ雑誌等で取り上げられることが増え、それに伴い百貨店から催事への出店依頼が多くなりました。そうなるとさすがに人手が足りなくなり、手伝うことになりました。現在も必要に応じて店舗に入ったり、工房に入ったり、会社全体の業務を見ています。時には夜22時に工房に行き、アップルパイを焼いて夜中の4時に戻るというようなこともあります。慣れましたけど、普通じゃないですよね笑。
―商品をほとんど手作業でつくっていると伺いました。
うちは基本的に手作業でやっているので、けっこうハードで、実はいま私も肘を少し痛めています笑。オーブンを扱う仕事なので、腕にやけどもしますし、肉体的にタフな仕事のため、残念ながら若い子が新たに入社しても数か月で退社してしまうことも多々あります。エキュート上野にも2011年のオープンから約10年お店を出していましたが、8時から22時という長時間営業が厳しくなってきて、昨年残念ながらお店を閉めることにしました。
―菓子作りは重労働と言われていますが、機械を導入しようと考えてはいますか。
重労働になっている現在のレシピは変えない。重労働を軽減するために一部作業の機械化を考えています。でも、ミキサーを導入しようと、機械の業者さんと話をしたのですが、バターの量が多すぎて、ミキサーに生地がくっついてしまうみたいです。ふつうこんなにバターをぜいたくに使いませんよって話をされました。確かにあまり細かく原価計算をするというより、お客さまに喜んでもらいたいという思いが強いですね。

―ブランドやお店を続けていくために意識していることはありますか。
特別なことをしているかというと、何も特別なことをしていないんですよね。お客さまに喜んで欲しいということでやっているだけです。使用している食材はよりよいものに変えていますが、レシピも当時からほとんど変わっていないですし。りんごはご縁があった長野の農家さんから仕入れているのですが、その農家さんがブルーベリーもつくっている関係で、ブルーベリーパイも作ることになりました。基本は農家さんや知人に紹介された果物を使うことで新たな商品をつくっています。おいしいからこれ食べてみてって紹介を受けることが多いです。また、レシピを従業員には隠さず公開もしています。マスコミやお客さまにもレシピを聞かれたらおしえてしまっています。「りんごの詰め方がわからない」というお客さまにも、「沸騰したら、いったん火を止めて30分位余熱を通してから、パイに載せて焼くといいですよ」って、つい伝えてしまいます。
―一般的にはレシピは企業秘密ですよね。
うちのレシピ通りに手作りでつくり続けることができる人がいるなら本当に代わってもらいたいと思っています笑。うちの母がお客さまに喜んでほしくて素材を惜しみなく使ってしまうんですよね。お店を出した当初と比べて、値段も上がっていますが、それ以上に商品のサイズも大きくなっています。
あとは、子供が毎日食べても安全なもの、自分の子供に食べさせたいものしか使わないというのがうちの考えです。ギフト商品を作ろうか考えたことはあるのですが、結局日持ちさせるためや食感をよくするための材料を入れることになってしまうので、あきらめました。でも正直こだわるというのはその分しんどいですが。

―今後、お店や会社をこのようにしていきたいというようなイメージはありますか。
現時点では店舗を増やそうという考えはありません。以前、関西で卸売することもしていたのですが、途中でやめました。どのように商品がお客さまの手に届いているか、自分達の目が届かないからです。ただ昨年エキュート上野店が閉店したので、体制的にもう1店舗は新たに出店することは出来ると思います。
会社については、将来子供たちには会社を継いでほしいとは思っていません。子供たちも小さいころからマミーズのアップルパイを食べて育っていて、店舗を時々手伝ってくれたりはしています。でも自分の子供だからといって、他に頑張っているスタッフがいれば、そのスタッフに継がせるからねとは言っています。それでもやりたいというのであれば、やってみればいいし、大変な仕事ですけどね。
<インタビューを終えて>
小松さんのお話を聞く中で、何度も「お客さまに喜んでもらいたい」という言葉が出てきました。その思いがあのアップルパイを作っているんだなと思うと、またマミーズのアップルパイが食べたくなります。催事で近くの駅に出店していることもあるので、ホームページで催事情報もぜひチェックしてみてください。
DATA
●マミーズ・アン・スリール谷中店
【住所】〒110-0001 東京都台東区谷中3-8-7
【営業時間】平日11:00~17:00 土日祝 10:30~17:00
【定休日】不定休
【電話番号】03-3822-8166(FAX共用)
※新型コロナウイルス感染症対策のため時短営業、イートインは営業休止中です。
※2021年10月時点の情報です。
http://www.mammies.co.jp/