2022年11月13日、前代未聞(?)の列車が常磐線を走りました。
その名も「185系録音専用列車」。
常磐快速線の運行に携わる我孫子運輸区の社員たちが、こだわりを持って企画したこのツアーに、「メモリアル185」担当が潜入しました。
旅の始まりは上野駅
2022年11月13日朝、天気は晴れ。絶好の「録音日和」。
上野駅17番線ホームにひときわ目を引く緑のストライプを纏った車両が入ってきました。

185系は1981年にデビューした車両で、主に東海道本線の特急「踊り子」や東北本線や高崎線の「新特急」で活躍しました。
実は常磐線にも縁浅からぬ車両で、お正月の成田山新勝寺への初詣臨時列車や、2015年~2021年に運転された我孫子駅発着の「踊り子」号、そして上野東京ライン開業前の試運転車両として185系が運転されていました。

185系車両については「メモリアル185」特設サイトをご覧ください。
いざ、185系に乗車。
今回のツアーは185系車両の「音」を徹底的に堪能しようというもの。
実は6両編成のうち、2号車、3号車には「録音専用車両」が設定され、参加者の録音機材たちのみが「乗車」することができました。
もちろん、録音に影響する車両間の貫通扉は閉められ、日中帯は気温が上がったこの日であっても、冷房はオフです。


発車数分前に、鉄道唱歌オルゴールとともに車掌のアナウンス。
「ただいまの放送をもちまして、松戸車両センター入区完了まで、車内放送はお休みさせていただきます」
まるで夜行列車の放送のよう。音にこだわりつくした列車は、11時17分に上野駅を出発します。
185系、常磐線を駆ける

上野駅を発車した列車は日暮里駅先の大カーブを通り、常磐線へと進んでいきます。
音を堪能する列車とあって、車内には静寂と、それでも抑えられぬ興奮が入り混じった不思議な空気が漂っていました。
今回の「185系録音専用列車」は上野~取手、取手~松戸を走り、松戸車両センターへそのまま入区。
その後松戸駅まで戻り、上野駅へ帰ってくるというルートを走ります。
北千住駅を通過し、荒川を渡るとぐんぐんスピードを上げていきます。
重量感あるジョイント音と唸るモーター!これぞ185系の走り!
このまま一気に取手駅まで駆け抜けるのかと思いきや、松戸駅で運転停車。
その後我孫子駅でも下り、上りともに運転停車。
実はこれらも185系の「音」を味わうために設定された特別ダイヤ。
松戸駅では3分間の運転停車を設け、ブロアモーターの停止・起動音を味わっていただく演出。
下りの我孫子駅では高速域からの停車、発車後の高速域までの加速を行い、独特のモーター音を堪能。
さらに高速走行の音をできる限り録音できるよう、上りの我孫子駅でも停車し、先行列車との間隔調整を行う粋な演出。
さすが、「音」を愛する社員企画のイベント!
松戸車両センターでも「音」を味わい尽くす
取手~我孫子~松戸間の高速走行の後、列車は本線を離れ松戸車両センターへ。
ピット内で、先頭からの写真撮影と床下機器の撮影・録音イベントです。

ピットは車両の床下機器のメンテナンスを行う場所。
通路よりもレールが高い場所にあり、目線の高さには台車や床下機器が並んでいます。
こちらは先頭車両からの撮影の様子。
185系の顔といえば、国鉄特急車両の代名詞ともいえる逆三角形の特急マークとイラスト入りのヘッドマーク。
今回の撮影会では参加者からの人気投票で上位となった「踊り子」と「はまかいじ」の2つのヘッドマークを表示しました。


そしてこちらが、今回のメインディッシュの録音コーナー。
まずは3号車(モハ185形)の床下にあるブロアモーターの起動音を録音。
合図とともにブロアモーターが唸り、たびたび断流器が「パコンッ!」と響く様子に耳とマイクを傾けます。


続いて2号車(モハ184形)床下へ。
運転台のスタッフがブレーキを操作してエアを抜いていくとコンプレッサーが起動。
豪快なブレーキ音とリズミカルなコンプレッサー音を余すところなく堪能しました。

音の楽しみは車内でも。
4種類ある185系の車内チャイムのすべてを鳴動。
参加者は車内各所にあるスピーカーに集まりマイクを向けています。
録音のチューニングのため、それぞれを30秒ずつ空けて鳴らす車掌の心配りも「音」を楽しむイベントならでは。

およそ2時間の車両センターでのイベントを終え、列車は上野駅へ向けて再び走り始めます。
旅の終わり、終着駅・上野へ
撮影・録音イベントの興奮も冷めやらぬ中、上野に向けて185系は駆けてゆきます。
往路ではオフだった冷房は、参加者たちの「帰りも音を楽しみたい」という熱い思いから、復路でもオフで運行されました。

企画を担当した我孫子運輸区社員からのメッセージ
この度は185系「録音専用列車」にご乗車いただきまして誠にありがとうございました!
今回は弊社で希少となった抵抗制御電車の「音」を心ゆくまで楽しんでいただく、このような企画をご用意させていただきました。
その音をできるだけ良い環境で皆様の記憶と記録に残していただきたいと考え、本線での走行音録音に加え、車両センターでの機器動作録音というパッケージングを試みましたが、ご満足いただけましたでしょうか?
この企画は我孫子運輸区の現場社員のこだわりだけではなく、運行ダイヤの調整などさまざまな部署の社員のこだわりが結集しております!
企画に関係した社員を代表いたしまして、この場をお借りして改めてご参加いただきました皆さまへ厚く御礼を申し上げます。
今後も我孫子運輸区では皆さまにお楽しみいただけるイベントを企画してまいりますので、またのご参加を心よりお待ちしております♪
(ここまでは2022年11月現在の情報です)
(以下2023年4月追記)
2023年4月、待望の第二弾開催!
2023年4月。
185系「録音専用列車」の第二弾が開催されました。
第二弾にはJOBANSEN KNOWの担当Hが同乗させていただきました。
大幅にパワーアップした第二弾を、前回との違いを交えながらお楽しみください。

今回の旅は我孫子駅からスタート。
録音区間は北柏~上野~取手~松戸と、前回よりも大幅に長くなりました。
少しでも長く185系の音を楽しんでもらいたいというスタッフの思いが感じられます。

上野駅では前回は17番線発着でしたが、今回は12番線を使用。
このホームに185系が入るのはなかなかないのだと思います。
発着番線のレア度だけでなく、12番線を使用するという点にもスタッフのこだわりが。
そのこだわりの内容は後ほど記載したいと思います。最後までぜひお読みください。

取手駅では「♪録音専用列車♪」というオリジナル表示も!
取手駅の社員が作成したそうです。通常ではお目にかかれない文字列ですね。

松戸車両センターの撮影会は前回と停止位置を変えて屋外で実施。
表示する列車ごとに編成番号も入れ替えるという徹底ぶり。
往年の名列車が、編成の魂とともに甦りました。

そして本イベントのメインディッシュ(?)とも言われる床下での録音コーナーも進化。
参加した皆さまの機器のチューニング用のリハーサルの後、ブレーキ緩解音、MG(電動発電機)起動音録音、CP(コンプレッサー)動作音録音、起動試験録音、床下の撮影タイムと、185系を余すところなく楽しむ時間となりました。

JOBANSEN KNOW Twitterアカウントでは、この録音コーナーのうち、「MG起動音」をアップしております。よろしければご覧ください。
https://twitter.com/jobansen_know/status/1647724193319116800
イベント終了後には本イベントの解説放送が行われました。
本記事では、文案の全文を掲載させていただきます。
ご参加いただいた皆さまはイベントの振り返りに、惜しくもご参加いただけなかった皆さまはスタッフのこだわりをぜひご覧ください。
(以下は放送文案であり、当日行われた放送と若干語尾などの言い回しが違う部分はご容赦ください)
本日は「185系録音専用列車で行く常磐快速線と松戸車両センター」にご参加頂きありがとうございました。
ここで、録音専用列車の行程について解説させて頂きます。
今回は運転方法についても担当運転士と調整しましたので合わせて解説させて頂きます。
上り9484Mは先行列車との間隔調整のため「柏」と「北千住」で運転停車を設定しました。
上り9484Mは放送再現を行うので「北柏」「柏」「北千住」発車時はそれぞれ放送再現の設定駅を想定した加速を行っています(※)。
上野駅では最初の案では17番線でしたが、17番線だと前回と同じになってしまうため12番線に変更しました。
上野では22分停車しましたが、これは前回、先行の上野東京ラインが若干遅れたため、他路線の影響を受けにくい上野始発電車の後に発車するよう調整したためです。
下り9485Mでは上野12番線発車ということで、快速電車と同じように流しノッチ無し、力行5段で加速し地平ホーム発車との違いを出しました。
下り9485Mでは「三河島」「北千住」「柏」で先行列車との間隔調整のため運転停車を設定しました。
下り9485M金町~松戸間では、常磐緩行線との交差部分の隧道手前で力行、音の反響する隧道内で加速するように速度を調整して運転していました。
最後の上り9486Mでは天王台に運転停車しました。これは先行列車との間隔調整の他に、天王台発車後約1キロ続く下り10パーミル勾配で加速度を高める狙いがあり、我孫子駅手前にある定尺レール区間を高速で通過するために設定しました。
行程についての解説は以上です。
最後に松戸車両センター内でのブレーキ緩解音収録時のブレーキハンドルの位置についてお知らせします。
一番最初のブレーキ緩解音は、80°から重なりです。その後、重なり→減圧、重なり→0°、80°→30°、67°→30°、0°→非常の順となっています。
収録したデータを編集する際のファイル名などにお役立てください。
本日はご参加頂きまして誠にありがとうございました。
(※)今回は上り9484Mにて185系や常磐線に関係する放送と加速を再現しました。
北柏発車では流しノッチで踊り子号我孫子発を再現。
柏発車では刻みノッチを行い415系に近づけた加速で415系通勤快速神立発を再現。
北千住発車では流しノッチ、45km/hでノッチオフすることで踊り子東京発を再現しました。
ちなみに当日担当した運転士が持っていたメモがこちら。

スタッフ一丸となって、「常磐線を知り尽くす我孫子運輸区乗務員だからこそできる列車」を体現していました。
スタッフ曰く、今後も録音を目的とした列車の運行を検討していくとのこと。
この記事をご覧になって興味を持たれた方は、ぜひご参加お待ちしております。