入居者や街のみなさんとともに田植えや稲刈りをする「おこめをつくる不動産屋」さんが松戸にあるのをご存知でしょうか。
「自給自足できるまちをつくる」ことを目指し、「場と機会の提供を通じて、コミュニティをリノベーションする」会社、それがomusubi不動産です。かわいらしい会社名ながら、DIYが可能な賃貸管理戸数は220戸、DIY賃貸管理戸数としてはなんと日本一!を誇ります。

松戸駅や八柱駅、みのり台駅の周辺にカフェやベーグル屋さん、コーヒーショップにブックストアなど、個性ある個人のお店がここ数年で新たに生まれています。調べていくとその物件を提供しているのがomusubi不動産とわかり、代表の殿塚建吾さんに話を伺いに行きました。(余談ですが、インタビュー中、殿塚さんが学生時代ニューデイズでアルバイトをしていたことがわかり、一気に親近感がわいてしまいました。)

殿塚 建吾さん 撮影:加藤 甫
殿塚 建吾さんプロフィール
omusubi不動産代表/宅地建物取引士
1984年生/千葉県松戸市出身
不動産会社、企業のCSRプランナーを経て、房総半島の古民家カフェ「ブラウンズフィールド」に居候し、自然な暮らしを学ぶ。震災後、地元・松戸に戻り、松戸駅前のまちづくりプロジェクト「MAD City」にて不動産事業の立ち上げをする。2014年4月に独立、おこめをつくる不動産屋「omusubi不動産」を設立。
|不動産業はゼロをイチにする仕事ではない
-不動産屋さんですが、なぜ田植えや稲刈りを行っているのでしょうか。
殿塚さん 今ある空き物件を活用し、顔が見える人たちと暮らしをつくる 「自給自足できるまち」をつくりたいと考えたのがomusubi不動産のはじまりです。田植えや稲刈りを始めたのは、不動産業はゼロイチにしていないと気づき、少しでも何かを生み出すことをしたかったからです。
-物件をリノベーションすることで新たな価値を生み出していると感じましたが。
殿塚さん 私たちはあくまで今ある不動産をお客さまに渡す役割であり、ゼロイチではありません。もともと母方の祖父母が梨農家で、その背中を見て育ったこともあり、農的な暮らしに関心を持っていました。第一次産業は何もないところから食べるものを生み出せるので、農家さんをリスペクトしています。

|いい店ができると、いい人たちが集まり、街が変わる
-最初に松戸エリアを選んだのは、なぜでしょうか。
殿塚さん 松戸出身で通っていた高校が八柱にあり、馴染みがありました。松戸駅周辺よりのんびりしていて、好きだったんです。八柱駅の近くにオーガニックカム―とスローコーヒー(現在は松戸新田で焙煎所のみ営業)があり、自分たちが事務所を構えれば、3拠点となり、おもしろいエリアになるのではと考え、最初にomusubi不動産の事務所を構えました。(その後、現在のあかぎハイツに事務所移転)
また、地域の人たち交流する中でカフェが欲しいよねという話になり、曜日ごとに店主が変わる『One Table』というカフェを立ち上げました。さまざまなイベントを通じてコミュニティーが出来上がっていったのですが、この活動を通じ、いい店ができるといい人たちが集まり、結果的に街が変わっていくことを実感しました。

OneTable店内。卒業生たちが松戸エリアで新たに店を立ち上げています。
写真提供:omusubi不動産
-松戸エリアにはリノベーションに適した物件が多いのでしょうか。
殿塚さん 日本初の大型開発団地である常盤平団地をはじめ、水戸街道が栄え、早くから開発されていたので、たとえば柏と比較すると、古い建物が多いかもしれませんね。ちなみに僕たちが現在入っているあかぎハイツも、もともとオーナーさんが養豚場を営んでいて、高度経済成長期に建てられたマンションなんですよ。

omusubi不動産本店が入るあかぎハイツ。1階部分に本屋さんと家具屋さん、裏側には農家レストランがお店を構えています。撮影:加藤 甫
|さらなるインパクトを出すために新たな拠点で新たな取り組みを。
-松戸の次に全くエリアの異なる下北沢に出店というのも驚きました。
殿塚さん 松戸のことをやるのに、松戸の中だけで活動するだけでは限界が来るかもしれないと感じていました。どこかの街に出ていき、新たなことに取り組めた方が自分たちにとっても、まちにとっても良いのではと。そんな中で、友人から声を掛けられ、小田急電鉄さんの再開発で生まれた下北沢のBONUSTRACKに出店することになったんです。
-下北沢に出店したことで変わったことはありますか。
殿塚さん 2拠点となったことで組織としてもマネジメントの点で苦労もありました。その一方で下北沢に出店したことで「松戸のomusubi不動産」だけでなく、『BONUSTRACKのomusubi不動産』として声を掛けられることが増えました。松戸エリアのみでやっていた頃と比較し、知名度が非常に上がったことを実感しています。
-松戸で培った経験は下北沢でも生かされましたか。
殿塚さん エリアが変わっても人と人という点で変わりはなく、地域の祭りなどに参加するなど、信頼関係を構築することが大事ですね。ただ東京はお店も多く競争も多いため、ある程度しっかりした投資をしてつくりこむことが必要だと感じています。

omusubi不動産 下北沢店があるBONUS TRACK。下北沢とは思えない解放感です。
写真提供:BONUS TRACK
|自分たちが触媒となり、都市と地方の相互補完を行いたい
-今後の展開として拠点を増やしていくという構想はありますか。
殿塚さん 地方に携わってみたいですね。松戸、下北沢と異なる都市部に拠点を設けたので、いつか不動産価格がつかないエリアに進出してみたいですね。自分たちが触媒となり、有機的なつながりを生むことで、都市と地方で相互補完を行い、新たな価値を生み出すことができないかと考えています。
-現在力をいれていることはありますか。
殿塚さん 松戸市では、文化を軸とした都市ブランドづくりやクリエイターやアーティストが活躍できるまちづくりを掲げ、様々な取り組みを展開していて、当社も国際芸術祭『科学と芸術の丘』に2018年から携わっています。
松戸エリアでアートが盛り上がっているのは、松戸市がアートに力を入れていることもありますが、やはり東京藝大が常磐線沿線にあることが大きいですね。おもしろい取り組みをしているアーティストが沿線に増えてきており、可能性を秘めていると考えています。

「科学と芸術の丘」会場となっている戸定邸。
撮影:加藤 甫・川島 彩水
科学と芸術の丘 – Matsudo International Science Art Festival (science-art-matsudo.net)
(インタビュー終了)
インタビュー後、殿塚さんにあかぎハイツの周辺を案内してもらいましたが、ブックストア、カフェなど徒歩圏内に複数のお店があることで、街に遊びに来る目的が生まれるなと感じました。そして、自治体や不動産デベロッパー、鉄道会社が行う再開発とは異なる、街づくりの形があるのだと再認識させられました。
omusubi不動産ウェブサイト https://omusubi.estate/