明治後期から大正時代にかけて活躍した「白樺派」とは?
『白樺』は、1910年(明治43)から13年間で160冊刊行された総合芸術雑誌。主なメンバーは、主宰の武者小路実篤、志賀直哉を中心に、「民藝の父」としても知られる柳宗悦、表紙も手掛けた洋画家の岸田劉生ら。「白樺派」は当時の文学・芸術の中心を担っていました。彼らは主に学習院出身の作家や芸術家の集まり。裕福な家庭で育ち、とても仲が良かったそうです。
文豪たちをキャラクターにしたゲーム『文豪とアルケミスト』ファンなら、「王子集団」と表現される白樺派に注目している人も多いかもしれませんね。
我孫子との関わりが深かった白樺派
1896年(明治29)に常磐線我孫子駅が設置され、都心から鈍行で75分、特急なら40分で行ける別荘地として注目された我孫子。風光明媚な手賀沼からは富士山も見られ、文化人たちにも好まれていたそうです。その一人が柳宗悦の叔父・嘉納治五郎。宮藤官九郎さん脚本の大河ドラマ「いだてん」で役所広司さんが演じていた“日本オリンピックの父”といえばぴんとくる人がいるかも?

嘉納治五郎に勧められて我孫子に家を構えた柳に続くように志賀直哉、武者小路実篤も我孫子へ。ザワザワとした都心から離れ、手賀沼ごしに富士山が見えるこの町は創作意欲をかき立て、その後の活躍に大きく貢献。彼らが我孫子に住んでいたのは数年ですが「白樺派」にとってはとても縁の深い町といえますね。
貴重な資料を収蔵する「白樺文学館」
現在、我孫子市が管理する「白樺文学館」には、白樺派や彼らと交流のあった文化人たちが残した貴重な資料が数多く所蔵されています。
私が訪れた日の展示はちょうど「白樺派と我孫子」がテーマ。彼らの直筆原稿や作品、書簡などを間近に見ることができました。特に印象に残ったのは志賀直哉の直筆原稿。びっしりと残された推敲の跡がとてもリアル!


白樺派が愛したカレーを再現
1階の図書室には、雑誌『白樺』の復刻版をはじめ、白樺派に関する資料などが閲覧可能。その一角にあるミュージアムショップでは、『白樺』デザインの一筆箋などが販売されていました。

中でも目を引いたのが「白樺派のカレー」。柳宗悦と親しかったイギリス人陶芸家バーナード・リーチのアドバイスで、柳の妻・兼子さんのカレーにみそを加えたというエピソードを元に、町おこしの一環として作られました。兼子さんのレシピは残っていなかったため、当時の食材や献立などを研究して再現。「みそを入れては?」と提案したのが外国人のリーチだったというのもちょっと面白いですよね。
武者小路実篤や志賀直哉など白樺派のメンバーも、きっと兼子さんのカレーも食べていたことでしょう。そして、夏目漱石や正岡子規も当時新しい食べ物だったカレーに魅了され、こぞって小説や日記に登場させています。言われてみれば、いろいろなスパイスを加えてじっくりコトコト煮込むカレーは、小説を生み出す作業にも似ているのかも?

DATA
●我孫子市白樺文学館
【住所】我孫子市緑2-11-8
【開館時間】9:30〜16:30(入館は16:00まで)
【入館料】300円
※「白樺派と我孫子2021」は2021年6月27日(日)まで。展示内容は3カ月から半年程度ごとに変更。
【休館日】月(祝の場合は翌)
※展示替え、資料整理のため臨時休館することがあります。
【アクセス】JR我孫子駅南口から徒歩15分。もしくは我孫子駅から阪東バス「東我孫子車庫」または「湖北駅南口」行き5分の「アビスタ前」下車、徒歩2分
【公式Twitter】https://twitter.com/abikoshirakaba
※2021年3月時点の情報です。
※我孫子市白樺文学館は基本的に撮影禁止です。今回は特別に取材許可を得て撮影しています。
※新型コロナウイルス感染症対策のため、マスクの着用をはじめ、ご協力いただくことがございます。詳しくは我孫子市白樺文学館HP(我孫子市HP内) 開館についてのページ(http://www.city.abiko.chiba.jp/event/shiseki_bunkazai/shirakaba/index.html)をご確認ください。
志賀直哉が自分でデザインした書斎
文学館から歩いてすぐ、30メートルの所に家を構えていた志賀直哉。跡地は我孫子市文化財に指定され、1921年(大正10)築の書斎が保存されています。この書斎は直哉自身がデザインしたもの。代表作「城の崎にて」や「和解」「暗夜行路」はここで誕生したと思うと感慨深いですね!

ちなみに土・日曜の10時から14時までは書斎内部を公開。実は私が到着したのは日曜14時1分! 戸締まりを始めていたスタッフの方に頼み込んだのですが、セキュリティーの関係でもう一度開けてもらうことはできず断念。せっかく訪ねるなら時間に余裕を持って行くことをおすすめします!


我孫子には他にも武者小路実篤の旧邸(非公開)や、彼らと交流のあったバーナード・リーチの碑などもあるので「我孫子・白樺派」ゆかりの地巡りをしてみてはいかがでしょうか。
DATA
●志賀直哉邸跡
【住所】我孫子市緑2-7
【開館時間】見学自由(土・日の10:00〜14:00のみ書斎公開)
【入館料】無料
【アクセス】JR我孫子駅南口から徒歩15分。もしくは我孫子駅から阪東バス「東我孫子車庫」または「湖北駅南口」行き5分の「アビスタ前」下車、徒歩2分
※2021年3月時点の情報です。